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子供に還る日

 私は父が大阪の団地に住んでいた頃に生まれ,4年後にはもう奈良に引っ越してしまい,以降父は転勤続きで家族ごと社宅に住んでいたので私には実家というものがない。一応プロファイルには「大阪府生まれ」と書いてあるが文字通りただ「大阪で生まれ」ただけであり,4歳までしか住んでいなかった大阪府堺市が自分の故郷であるという意識はほぼゼロだ。それでもあえて故郷はどこかと尋ねられればそれは4歳から10歳までを過ごした奈良県奈良市だと答えると思う。今では私は人生の3/4を関東で過ごしており,現在の仕事を続けるには首都圏に住み続ける事が不可欠なのが現実だが,それでも過去住んだ地で一番好きなのは長閑で人のあまりいない,子供の頃カブトムシを探して走り回った奈良に違いない。

 そして2番目に好きなのが多分,今住んでいる神奈川県の某所だ。越してきたのは今年の3月で,私にとっては通算9回目の引っ越しだった。ここは街としては比較的新しく私が奈良で住んでいた団地より20年ほど遅れて造成された筈なのだが,それでもどことなく奈良の頃の住まいに似ている感じがするのだ。何がと言われると困るのだが一番似ているのは独特の匂いがするアベリアの生垣かもしれない。それに草木や虫などの自然が意外に豊かな事,それから何と言っても人が少ない事だろうか(笑)。昨日も駅までの道すがら元気に跳ね回る茶色いイボバッタを見つけたのだが,これに遭遇するのも多分奈良を離れてからは初めて(=33年ぶり)だったように思う。駅to駅だと渋谷まで30分そこそこの好環境でありながら,(あくまでも自分にとってだが)こんなにも奈良にそっくりな田舎に住めるとは思ってもみなかった。思えば自分がピアノやヴァイオリンを始めたのもまさに奈良に住んでいた頃であり,自分が音楽を始めた奈良とよく似た街に,いま毎日音楽の仕事をやっている自分が住んでいるという事にある種の一区切り感というか,「やっと一周した」感みたいなものを覚える。私はどちらかといえば「住めば都」タイプなので今まで何度引っ越しをしても「この街はもう嫌だな,別の場所に引っ越したい」と思った事はないが,今の住まいには何か特別な安寧があるように思う。永く住みたい街だ。家賃も安いし(笑)。


…gone much too early

 (某SNSからの転載です)

 ︎私がレッスンをしている渋谷の公園通りにある音楽教室がまだ駅東口にあった頃、同じ曜日に来てサックスを教えている金髪のデカい先生がいた。この先生は私より一回り以上年上で本当に凄いプレイヤーなのだが、いつも私がロビーで生徒やスタッフと話をしていると背後から忍び寄っていきなり私の脇腹を全力でくすぐるという大変困った人で、私が「ひっ」と叫んで飛び上がると走って逃げるというオトナにあるまじき行為を取る人だったが教室のスタッフ達からは大変敬愛されていた。

︎ のちに何度か演奏をご一緒する機会にも恵まれたが今更私如きがこの方の凄さ・素晴らしさについて書くなど正に僭越というものであろう。超絶な実力者でありながらとてつもなく華もエンタメもあるという、私のような地味めなミュージシャンには人生があと2回あっても辿り着けないような存在だった。

︎ やがて東口にヒカリエが出来る頃教室の移転が決まり、ベース科とサックス科は建物が離れてしまうことになった。

 箭島「なんか寂しくなっちゃいますねー」

 大路「そーだなー、もうコチョコチョ攻撃もできなくなっちゃうもんなー」
 箭島「…(そこかいな)」

 †

︎ 今朝方、その先生が亡くなられたと知った。あんな、太陽のような人が居なくなってしまうなんて信じられない。離れてしまうのはせめて教室だけにしてほしかった…。