As a leader

AmaKha(アマーカ) —

 AmaKhaはゴスペル・ヴォーカリスト,三科かをり女史と新たに結成したゴスペル・オリエンテッド・ユニットです。結成は2010年ですが,準備期間が長かったため初ライブは翌2011年の3月20日でした。この初ライブの9日前に東日本大震災があり,ライブの開催自体が危ぶまれるなど様々なドラマがありましたが,誰もが困難を抱えているであろう中,当日の客席は満席となり,改めて音楽の力・ゴスペルの力に私達自身が勇気づけられた出発点でした。
 固定メンバーは私と三科女史のみであり,他のパートはライブ毎に様々なミュージシャンにお願いしていますが,現在ではピアノを西直樹さんや森丘ヒロキ君,ドラムを加納樹麻君や岩瀬立飛さんにお願いする事が多いです。また横浜Thumbs Upモーション・ブルー・ヨコハマなど広めの会場ではオルガン,ギター,クワイア等を加え8〜9人の大編成でライブを行なっています。
 そもそも三科女史とは2002年にヤマハ関連のゴスペルの仕事で知り合ったのが最初の出会いでした。以後しばらくの間は女史と仕事をする機会はほぼ年1回のこの仕事のみだったのですが,このヤマハの仕事は私がゴスペルを好きになるきっかけを作ってくれた非常に重要な機会でもありました。その後2007年くらいから女史と仕事をする機会も増え,音楽の話をする事も多くなり,彼女がやっていたバンドも活動休止中だという話を聞いて「それなら,貴女の好きなゴスペルのユニットを新しく立ち上げてみようよ」と私から誘ったのがAmaKha誕生の経緯です。ちなみにamakhaとはズールー語で「香り」の意だそうで,要は女史が二人のユニットに自分の名前を付けたというだけの事なんです(笑)
 女史が高橋ゲタ夫さんのバンド「クリスタル・ジャズ・ラティーノ」のヴォーカリストに抜擢され,AmaKhaの活動も徐々に広がって行くにつれ「ヴォーカリスト・三科かをり」の名も世に浸透しつつあると思いますが,もしゴスペル好きの方で女史の歌を聴いた事がないという方は是非1度AmaKhaのライブを聴きに来てください。強ち手前味噌ではなく,女史は日本人で海外のゴスペル・ヴォーカリストに伍する事のできる数少ない一人だと思います。
 私個人にとってのAmaKhaは初めて自分で主宰する純ヴォーカル・ユニットであり,自分が作編曲を全て担う初めてのグループでもあります。その分「ピアノトリオ『宴』」に無い大変さもありますが,何と言っても大学生の頃から歌ものにハマり始めた自分にとってヴォーカルの実力者とバンドを立ち上げるのは長年の念願だったので,2011年以降,私はAmaKhaのお陰で極めて幸せな音楽人生を送れていると言えます。


 AmaKha結成当初から,当然の事ながら「いずれはCD作りたいよね」という話は出てはいたのですが,正直なところ最初の2年間は大小のライブを回すだけで私も三科女史も精一杯でした。しかし2013年1月,初めてモーション・ブルー・ヨコハマでのライブを4ヶ月後の平日にブックするにあたって「こりゃなにか大きなタイトルをライブに付けないと」「そうするとやっぱレコ発だよねぇ」という話になり,ようやく具体的にレコーディングへ向かって動き出した…というのがこのミニアルバム誕生の経緯です。最初から制作期間に限りがあったためレコード会社に助力を求めるのは難しく,今回は自主レーベルでのリリースという選択肢しかありませんでした。それでも出来るだけクォリティの高い作品にしたいという願いがあり,大高清美 (org.) さん,田中”TAK”拓也 (gt.) さん,野呂一生 (gt.) さん,Ashton Moore (vo.) さんに1曲ずつゲスト参加して頂くという自主にあるまじき贅沢な構成を取っています。

 内容はミニアルバムという事もあり,ようやく増えつつある私達のレパートリーの中から断腸の思いで4曲を厳選しました。うち2曲はゴスペル曲のオリジナル・アレンジ,残りの2曲はオリジナル曲です。どの曲でも女史のハイパー・ヴォーカルが堪能できますが,殊にオリジナル曲「いつも近くに」のヴォーカルは初めて聴く人なら誰でも圧倒される事請け合いです。書いた曲が売れる条件に「誰でもカラオケで歌えること」というのがあるらしいですが,その基準で行くとほぼ女史にしか歌えないであろうこの曲はとても売れそうにないということになります(笑)。しかし作曲者はきっとこの新しい表現が決して難解な自己満足で終わることなく,たくさんの人に等しく感動を与えられる筈,と信じています。そして森丘ヒロキ・加納樹麻両氏の鉄壁のリズムセクション,センス溢れるTAK氏のギター・アレンジ,Ashtonの黒人ならではの巧みなソロと芳醇なコーラス,スウィングする清美さんのオルガン,そして感動を巻き起こす野呂さんのソロ…。ゴスペルやフュージョン,歌もの/インスト,洋/邦に拘らず,こんなに心を込められて作られたミニアルバムはそうないはず,と自信を持って言えます。
 

使用機材:

– basses – YAMAHA TRB6PII Modified (all songs)
Elrick Classic 6 (only bass solo on #2)
– direct Box – G_2Systems R.D.I.(all songs)

 この2nd Album制作の端緒は,意外な話から持ち上がりました。
 2014年の春頃でしたか,私のD.I.(ダイレクトボックス)を作ってくれているG_2Systemsの千葉氏から「吉田保さん(山下達郎さんや大瀧詠一さん,吉田美奈子さん等のアルバムを数多く手がけておられるレコーディングエンジニア界の重鎮)のエンジニアリングセミナーをやろうと思ってるんだけど,2曲ほど実演してくれるバンド呼んでくれない? 録った音源はリリースしていいからさ」と持ちかけられたのです。編成は自由という事でしたが小編成よりも色々な楽器が入っている方がいいという事で,私の仕切りであればAmaKhaが最適であろうと思い三科と相談して日程の調整に入りました。斯くして録音が行われたのは7月27日,場所は西麻布のラボレコーダーズ。千葉氏が製作したD.I.やマイクプリアンプをはじめ,数々の最新鋭機器を惜しみなくつぎ込んで保さんが録る音は,私たちの想像をはるかに超えるもので驚愕の一言でした。どんなサウンドなのかをここで私が説明するのは野暮というものです。是非CDをご購入いただいた上で皆様の耳で確かめてみてください。
 ミニアルバムとは言え「Let it Be」と「Glorious Thing」の2曲だけでは物足りないと思われたので,お世話になっている柏の「Studio WUU」さんで後日,「Time After Time」と「Oh Happy Day」を録らせていただきました。WUUはレコーディングスタジオではなくライブハウスなので,ピアノとドラムは衝立はあるものの同部屋で録音されており,若干アコースティックなサウンドになっています。こちらは録音をWUUのエンジニアである阿部哲士さんが,ミキシングは僭越ながら私・箭島裕治が担当しています。
 長々と録音環境の話ばかり書いてしまいましたが,今作もヴォーカル三科かをり女史をはじめ,サポートミュージシャンの森丘ヒロキ (pn. on #1,2) 君,西直樹 (pn. on #3,4) さん,山田豪 (gt. on #1,2,4) 君,伊藤大輔 (cho.) 君,そして26年来の盟友・岩瀬立飛 (drs. on all songs) さんが圧倒的なパフォーマンスを聴かせてくれています。私個人としてはベーシストとしてよりも,AmaKhaでの初めてのオリジナル曲である「Glorious Thing」,そして会心のアレンジである「Let it Be」が収録できたのが何よりも嬉しいです。この2曲に関しては,三科女史以外に歌える人はそう多くないのではないでしょうか。保さんからもかなりお褒めのお言葉を頂いていたようです。
 録音関連は2014年中に終わっていたにもかかわらず,そこから私も三科も忙しくなってしまったためそれ以降のスケジュールは延びに延び,結局はリリース日が2015年12月6日となってしまいました。録音初日から数えると1年4ヶ月強です。4曲しか入ってないのに(笑)。でもその間,全幅の信頼を置くカメラマン井上百代さんやデザイナー和泉卓哉君,そしてカシオペアの初期アルバムを手がけておられたマスタリングエンジニア小池光夫さんにお仕事をお願いする事ができ本当に良かったです。メジャーだろうがインディーズだろうが自主制作だろうが,一番大切なのは「志の高さ」に他ならないのだという事を,この作品を通して多くのプロフェッショナルの方々に改めて学びました。

使用機材:

– basses – Elrick Classic 6 (#1,2)
Veillette Archtop 6-Strings Fretless (#3)
YAMAHA TRB6PII Modified (#4)
– direct box – G_2Systems R.D.I.(all songs)
– cables – KagetsuRock Cables (all songs)

3rd Mini Album “Silent Night”
AMK Records(2017年)
※現在は販売しておりません。(2024年12月よりダウンロード販売開始予定)

 AmaKhaのライブ活動を開始した2011年,初めて迎えたクリスマス時期のライブは確かAshton Moore (vo.) 氏と堤智恵子 (sax.) 女史をゲストに迎えた大船Honey Beeでのライブだったと思います。このライブを迎えるにあたって初めて自分でアレンジしたクリスマス曲が「Silent Night(きよしこの夜)」でした。入浴中になんとなく「ECMっぽい感じにしたいな」などと考えていたらピアノのイントロが思い浮かび,書き留めておいたフレーズを元に後日アレンジに取りかかったら,あっという間にエンディングまで出来上がってしまった…という,自分にとっていつになく出色の出来というか,今まであまり経験のない「勝手に筆が動いてしまったような感じ」のアレンジでした。今でもこの曲だけはなんだか自分のアレンジでないような気がしていますが,その分私はこのアレンジを他人の作品のように気に入っています(一応言っておきますが確かに私が施したアレンジですので 笑)。
 その後シーズンを迎える度に1曲ずつAmaKha用にクリスマス曲をアレンジしてきたのですが,実は2013年暮れの1st Album「Future Gold」を出したあたりから「次はクリスマスアルバムもいいな」と個人的には思い始めていました。多分この時点ではまだ「Silent Night」と「The First Noel(牧人ひつじを)」しかアレンジしてなかったと思うのですが,やっぱりクリスマスキャロルっていいものだな…と改めて感じていたのです。もちろん2曲でアルバムを作るのはちと拙速とも言えるのですが,その辺は「ま,作るとなったらもう2,3曲アレンジすればいいし」くらいにユルく考えていました。しかし実際には翌年春に吉田保さんの録音/ミックスで新譜をレコーディングすることが決まり,「それならせっかくなのでオリジナル曲を盛り込もう」という話になり,更にそのリリースが何と翌々年冬にまでずれ込んだこともあって,結果クリスマスアルバムの話は何シーズンか見送らなければならない事になりました。あまつさえ三科・箭島共にAmaKhaを始めた頃よりもだいぶ忙しい人になっていましたし,殊に2017年の女史は多忙を極めていたので,正直バンド内では「これは今年も録音は無理かもね」くらいの諦めムードにもなっていました。
 しかし忙しさが一段落した10月上旬の時点で改めて可能性について検討し,「今やらなければ今年も絶対に無理だ」「今やればギリギリ12月上旬に出せるかもしれない」と一念発起し,「何が何でも11月中旬にはプレス会社にマスターを納品」と期限を決めスケジュールを逆算し,ミュージシャンにオファーを出しスケジュールを取りまとめ,スタジオを予約しプリプロを作り仮歌を入れ…と大慌てで準備を進めました。録音→ミキシングまでは大変スムーズに行きましたが,マスタリングの際に私が求めるヴィジョンが色々と変遷したためプレス会社への納品間際まで時間がかかってしまいエンジニアの小池さんにはたいそうご迷惑をおかけしました。しかしおかげで二人が納得できる音像に仕上げる事ができ,本当に良かったと思っています。
 収録曲としては前述の2曲に加え2015年にアレンジした「O Little Town of Bethlehem(ああベツレヘムよ)」,そしてクリスマスキャロルではありませんが2016年にアレンジした黒人霊歌「Deep River(深き河)」を選びました。どれも自分なりにとても気に入っているアレンジですが,「Bethlehem」だけは最初にできたアレンジにあまり納得がいかず,翌年の12月に一度大幅に改稿した覚えがあります。今回のアルバム収録にあたって「Deep River」ではKWRゴスペルクワイアのコンサート用に書いたコーラスパートを三科女史に歌ってもらい,他の3曲には新たにコーラスパートをがっつりと書き下ろしました。3声のクワイアのうちテナーに関してはやはり男声が良いという事で,1stアルバムの時はAshton Moore氏に,2ndの時には(「Let it Be」のみ)伊藤大輔氏にそれぞれ歌ってもらいましたが,今作では何と,わ,わ,私がテナーパートを歌っています(3声被せているうち1声は女史ですが)。ただし「Silent Night」だけはどうしてもアラが目立ちすぎてしまうので女史が全て重ねています。
 演奏は前作に引き続きピアノを西直樹さん,ドラムを岩瀬立飛さんにお願いしています。「圧巻に次ぐ圧巻」とでも言うべきお二人のスーパーテクニックに耳を奪われない人はいないと思いますが,彼らの真髄が「グルーヴネス」にあるという事を,解る人には解ってもらえるのではないかと思います。ファンクのグルーヴというと「重さ」を勘違いして単にだんだん遅くなっていく人とかがいますが(笑),そういう事ではないんですよね。
 そして今作ではゲストミュージシャンとしてフルート界の女帝・赤木りえさんに2曲参加していただきました。2017年はギタリスト伊藤芳輝さんのおかげでりえさんと共演させてもらえる機会がありがたいことに激増した年だったんですが,私は芳輝さんのライブでのりえさんの演奏を見ながら「もし今年AmaKhaのクリスマスアルバムが作れたら,『Silent Night』のソロパートを吹いてもらえたりしないかしら」と妄想していたんです。りえさんといえばカリビアン・ミュージックの第一人者でもありますからどちらかと言えばサルサにアレンジされた「Bethlehem」じゃね? …と思われるかもしれませんが,私としてはできればその両方,もし何らかの制約でどちらか1曲となったら一番思い入れの強い「Silent Night」と思っていました。幸いにしてりえさんは三科女史とも「松岡直也トリビュートライブ」で共演してくださっていましたし女史のヴォーカルを高く評価してくださっていたこともあり,録音とレコ発ライブへの参戦を快く引き受けてくださいました。しかも私が思い描いていた両曲どちらにも参加してもらえることになり,かくして今作は普通なら無謀とも言える2ヶ月という制作期間の中で,ものすごく贅沢なミュージシャンのみなさんをクレジットできる運びになったのです。
 ベーシスト箭島裕治としては,InnerWoodをメインベースにして以来初めて録音したリーダーアルバムとなりました。今作でのメインは自分のモデルではなくシングルコイル仕様のStudio356JJで,これはさしたる意図はなくたまたま弦交換のタイミングが合った方の楽器を使ったというだけの話です(笑)。また「Silent Night」ではやはりInnerWoodの6弦フレットレスを使っており,楽器製作者の木内さんはこの曲のベースサウンドをとても気に入ってくださったそうで大変嬉しく思っています。

使用機材:

– basses – InnerWood Studio356JJ (#1,2,3)
InnerWood Studio356JH Fretless (#4)
– direct box – G_2Systems R.D.I.(all songs)
– cables – KagetsuRock Cables (all songs)

NEW!
4th Album “Power of Life”
AMK Records(2022年)
※画像クリックで販売サイトへ

 AmaKhaとして初めて「4曲入りのミニアルバム」というフォーマットを脱した作品です。とは言っても「7曲・37分」という分量は「フルアルバム」と呼ぶには少々微妙なような気もします。この位のサイズ感のアルバムって,なんて呼んだらいいんでしょう(笑)。

 実はとある事情からAmaKhaはコロナ禍が本格化する1年前,2019年5月のライブを最後にしばらくの間「1時間×2セット」のような長尺のライブを控えていました。その後2020年春になって日本でコロナが顕在化すると私も三科女史もライブやレッスンの仕事が一時すっかりなくなってしまい,あまりに暇なもんでNETDUETTO(現在のSYNCROOM)による遠隔同時演奏に取り組みはじめ,PAエンジニア橋本敏邦さんのご協力もあり遠隔アンサンブルをライブとして配信させることに成功し,以降月1回の定期的な配信ライブを投げ銭で行なうようになり,後にそれらをサブスク制生配信ライブ「AmaKha Broadcasting! ‘Neo’」という形に昇華させたのはご存知の通りです(現在はサービス終了)。配信ライブでは演奏時間も自分たちで自由に決められるので「70分×1セット」のようにもできますし,殊に三科女史にとっては(1)ヘッドホンでモニターし(2)そのバランスを自由に変えながら(3)必要十分な音量で歌えばいい…というSYNCROOMでのライブは,喉への負担も生ライブとは比較にならないほど軽く,大変好ましいものだったようです。

 なので,AmaKha的には2019年よりも2020年以降の方が断然アクティブに活動をするようになりました。殊に作編曲に関しては「できるだけオリジナル曲か,PD(著作権切れ)曲のオリジナルアレンジを増やしたい」という配信ならではの事情もあったため,私自身も否応なくクリエイティブな作業に追い込まれる羽目になったわけです(笑)。斯くして「いつも近くに」以来9年間も新曲を書かずにダラダラ過ごしていたAmaKhaに,ホント言いたくないですがコロナ禍のおかげでオリジナルの新曲「Power of Life」が生まれることになり,2021年2月の「第100回記念ライブ」でめでたく初お披露目となりました。ただこのライブ,華々しくお客様の目の前で新曲を演奏したかったのですが,緊急事態宣言とダダ被りしてしまい泣く泣く無観客の配信ライブに変更せざるを得なかったのも記憶に新しいところです。

 一方スタンダード曲のオリジナル・アレンジもかなり増え,2021年の暮れには3rdアルバムの在庫がようやく尽きたこともあり「売り物も無くなっちゃったし,ぼちぼち次の作りますか」という話が自然に出てきました。曲は「Power of Life」とその後に書いたオリジナル「Flower Buds」,コロナ禍以降に書いたアレンジ「Amazing Grace」「いつも近くに」「Imagine」「You Raise Me Up」,そしてだいぶ前のアレンジながらまだアルバム未収録だった「What’s Going On」を収録することになりました(これ以外にもコロナ以降にアレンジしたスタンダードがまだまだあるのですが,それらは次のアルバムに入ることになりそうです)。

 前作は「12月に出すアルバムを10月に作り始める」という無茶苦茶なスケジュール感で作り始めましたが,今回は特にリミットもなかったので「このご時世らしく,全パート宅録でやってみるのはどうだろう」という挑戦を設けてみました。あらかじめ全パートが打ち込まれた仮オケを作っておき,ドラム→ベース→ピアノ→ギター→ヴォーカル→コーラス→ストリングスの順に生演奏と差し替えていくという手法です。DAWが使える方には自宅で勝手に録ってもらってデータを送ってもらい,使えない方のお宅には私がPCやらI/Oやらを持ってお邪魔し,お茶やお菓子や夕食をご馳走になって帰ってきました(笑)。マスタリングもAmaKhaのアルバムとしては初めて私自身が行なっています。また,4tuneのお二方(チザ&ヤスコ)によるコーラスの録音はなんとSYNCROOMを使って行われています。

 まぁそんなわけで手法的にはAmaKha的初挑戦が目白押しだった当作品ですが,聴いていただく分にはその辺は良くも悪くも一切判らないと思います(笑)。多分「ドラムの音めっちゃいいじゃん!」と思われる方は多いと思いますが,そこは私のミキシング技術ではなく岩瀬立飛さんの録音技術の賜物であることは付記しておきたいです。

 当初締切もなく呑気に制作を進めていた当アルバムでしたが,2022年5月ごろに大船ハニービーさんからライブのオファーをいただき「そしたらそれをレコ発にしますか」ということで9/18にブックが決まって以降は全ての作業が一気に締切との戦いに切り替わりました。…というよりもこの時点でもっときちんと戦っておけば良かったのですが,締切が決まってからも結構余裕ぶっこいていたことが災いし,「8/20には何がなんでもプレス会社に納品する!」というリミットも結局守れず,その後私の入院手術案件などもあったためさらに時間を浪費してしまい,結局前作よりもさらにギリギリなスケジュールでうちにブツが届くというダメダメっぷりを発揮してしまいました。今回も素晴らしいデザインを考えてくれた和泉君には毎回毎回最後を急がせてしまっていつも申し訳ないなと思っています。でも次作でも多分そうなることでしょう(笑)。

 前作と違い特段コンセプトも設けず,ただ「新しめの作品を7曲ピックアップしました」というだけのアルバムですが,三科女史はじめプレイヤーの皆さんの凄絶な演奏のおかげで完成してみたら何だかとんでもない作品に仕上がっていました。どう「とんでもない」のか,…まぁ聴きゃ判りますよ。

使用機材:

– basses – InnerWood Studio356 (#1,2,4,6,7)
InnerWood Studio356 fretless (#4)
– direct box – G_2Systems R.D.I (#1,2,4,6,7)
– cables – KagetsuRock ALC301-SS-SS CRYO
 

— 箭島裕治BOOT FUNK! —

 サックス+4リズムセクションによるインストバンドで,元々は2004年から始めた半年に一度のセッション企画「やぢまプロジェクトvol.○○」が様々な沿革を経て「やぢまゆうぢブートキャンプ」「箭島裕治Boot Funk」と名前を変え,現在の表記になったものです。ですので単発セッション時代から考えると15年以上続いていることになりますが,メンバーを固定しバンド化したのは2016年なので事実上は私の最も新しいプロジェクトと言えると思います。
 現在のメンバーは堤智恵子 (sax.) 女史,山田豪 (gt.) 君,佐久間優子 (kb.) 女史,加納樹麻 (drs.) 君に私 (bs.) という顔ぶれです。バンド化した2016年から佐久間女史加入の2018年までは,黒瀬香菜女史がキーボード及びオルガンを弾いてくれていました。
 メンバーのうち堤女史とは最も長い2001年頃からの知り合いで,2008年頃からよく女史のリーダーライブに誘ってもらうようになりました。私の方も2009年の「やぢまゆうぢブートキャンプ」に誘って以来,女史にはずっと参加をお願いしています。他のメンバーは付き合いの長さで言うと豪君 (2002年〜),樹麻君 (2003年頃〜?),佐久間女史(2013年〜)の順に長いです。
 「FUNK」というワードをバンド名に擁する通り,オリジナル/カヴァー問わずファンキーな曲をたっぷり演奏するというバンドですが,例えば「ファンキー」「ロック」「ブルース」という言葉が人となりやエピソードを指して形容的に使われることがあるように,私の中でこのメンバーは(前任の黒瀬女史を含め)仕事仲間の中で「容易に周囲に与せず,自分のスタイルを貫く孤高の人」という意味で「最もファンキーな連中」にカテゴライズされる人たちです(笑)。単発セッション時代にはそのようなことはあまり考えずにただその時代毎に「凄いなぁ,巧いなぁ」と思った人に声をかけてセッションを組む…というだけだったのですが,2011年以降AmaKhaに専念するため一旦こちらをお休みし,2016年に活動再開のため5年ぶりのブックを組みたいな…となったとき,自分が自分のバンドで弾いて欲しいと思える人はそういう人たちだったのです。
 このバンドの音楽については言葉で「こんなサウンドです!」と表現するよりも動画を見ていただくのが一番判りやすいと思いますので,直近の動画二つを貼り付けておきます。「グルーヴネス」とはリズムセクションが考えるべきもの…と一般的には思われていると思いますが,本来はフロントマンだってグルーヴメイカーの一員に違いありません。堤女史のサックスや三科女史のヴォーカルは,それを端的に教えてくれる数少ない存在です。

 

NEW!
1st Live Album “Listen? or Dance?”
AMK Records(2019年)
※画像クリックで販売サイトへ

 BOOT FUNKに関しては,単発セッション時代はもちろんバンド化して以降も「すぐにでもCDを作りたい」という発想は,当初あまり持っていませんでした。もちろんバンドの作品を作ることは一つの目標ではありましたが,「オリジナル曲が十分に増えて,候補曲が10曲ほど集まって,制作費が溜まったらいよいよスタジオ録音かしら」くらいに呑気に構えていたのです。いつの事になるか判らないのに(笑)。
 しかし,2018年頃から私の頭の中に「ライブ録音」というキーワードをちらつかせる要因が2つ出てきました。一つはライブでお配りしているアンケートの中で「早くCDを作って欲しい」というご要望がちらほら出始めた事。そしてもう一つは,出演していた銀座No Birdさんである日たまたま録ってもらっていたライン録音が殊の外印象が良かったことです。上に挙げた二つの動画のうち,下のもの(2018/8/11のライブ動画)がそうで,モノラルなんですが荒すぎずそっけなさすぎずイイ感じに録れていて,お店の機材と録音スキルに感心するとともに「これ,マルチで録ってちゃんとミックスしたらえらい事まともなCDになるんじゃないかしら」と若干の妄想が頭をもたげてきたのです。
 セルフ・レコーディングに関しては「宴」よりさらに前,「ビッグジョン」というバンドに在籍していた1998年頃からのノウハウがあるにはあるんですが,ライブレコーディングとなると「宴」と「AmaKha」で1度ずつやった事があるだけで,いずれも録音自体は綺麗に録れたのですがそれを製品化までこぎつけるにはそれなりの労力と資金がいる事,またいずれのユニットもすでにスタジオ作品がいくつかあった事もあり,結局日の目を見させるまでの(ユニット的)モチベーションを維持する事はできませんでした。しかし今回はあらかじめ良い音で録れる事が判っていて,まだバンドの作品は1枚もリリースされておらず,しかもバンドは鬼才ピアニスト佐久間優子女史の加入で脂が乗ってきている…と,自分を後押しさせる要素が幾つもあり,「じゃぁ試しに一度やってみるか」という訳で2019年1月のNo Birdさんでのライブを卓の直前で回線を分岐させてもらいProTools録音してみたんです。思った通りサウンド的には十分以上でしたが,そうなると音素材的にもう少しテイクが欲しくなってしまい,更に翌々月のパラダイスカフェさんでのライブも同じ方法で録音し,両ライブのオリジナル曲から8テイクほど候補を挙げ,このあたりから本格的にCD制作を見据えて皆の意見も聞き最終的に1月のライブから「Listen? or Dance?」,3月のライブから「Run About」「Asleep」「In the Midnight」を収録曲に選びました。「In the Midnight」はライブ直前に書き上げた初演曲で,もう2〜3回のライブを経てからの方が完成度は高まるか…とも思ったのですが,堤女史のソロがあまりにも素晴らしかったため最終的には私の一存で収録を決めました。
 デザインはAmaKhaでいつも御世話になっている旧友・和泉卓哉くんにお願いし,クールな色調で決めてもらいしました。また今回は何かタイアップ企画ができないかと考え,ちょうどこの頃小規模のライブでモニター試用していたTrickfish社のアウトボードプリアンプ「TRILOBITE」をこれらの録音時にもDIとして使用していたため,このプリアンプを貸与してくださっていた小倉のTies Storeさんと横浜の045guitarsさんに協賛を仰ぎ,両店でもCDの取り扱いをお願いできる運びとなりました。Ties山藤さん,045鶴淵さんにはこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
 斯くして完成したBOOT FUNK初作品となるライブアルバム「Listen? or Dance?」。曲数こそ4曲ですが,ライブ演奏をノーカットで収録したため総再生時間が45分を超えるなかなかの大作に仕上がりました。2019年9月現在ではライブ会場での手売りと上記楽器店2店舗様での取り扱いのみですが,2020年くらいからAmazon販売にも乗せる予定でおります。
 音楽の聴き手がもしもプレイヤーから何らかの凄みを感じる瞬間があるとすれば,それは難解なスケールや夥しい音符数ではなく,グルーヴネスと歌心なんだということを伝えられる作品になったのではと自負しています。

使用機材:
InnerWood Studio356 (all)
Trickfish Trilobite (all)
KagetsuRock cables (all)

 

Piano Trio 宴(うたげ) —

 「宴(うたげ)」は林正樹 (pn.) ,箭島裕治 (bs.) ,岩瀬立飛 (drs.) によるピアノトリオで,私にとってはAmaKhaを始めるまでは音楽生活の軸と言ってもいい極めて重要なバンドでした。92年からの知己であった岩瀬氏とはかねがね「何か面白いバンドやりたいね」と話し合いいろいろなセッションを重ねていたのですが,2000年のある日「そういえば林君ってピアノがいるんだけど」「あ,オレも知ってる」という話が浮上,銀座のとあるお店で初めてセッションしたのが最狂最強ピアニスト林正樹との初顔合わせであり「宴」誕生の瞬間でした。その後準備期間を経て2001年より演奏活動を開始,以後10年ほど年間20回という高頻度でライブを重ねているジャンルレス・ボーダーレスなピアノトリオでした。3人とも曲を書くため楽曲はほとんどオリジナルで,たまにスタンダードを演奏する時も普通に演奏することはまずありません。ライブではしばしばゲストをお迎えすることもあり,過去には柏木広樹 (cello) さん,赤木りえ (fl.) さん,越田太郎丸 (gt.) さん,佐藤芳明 (accordion) さん,中西俊博 (vln.) さん,つづらのあつし (sax.) さんといった錚々たる方々が来て下さいました。2012年3月現在3枚のCDがリリースされています。近年では殆どライブをやっていないので幻のバンドと化しています(笑)。

アルバムタイトル ジャケット 購入手段
1st Album
「宴(うたげ)」
VME ,2002年)

basses:
YAMAHA TRB-Custom
(Freted & Fretless)

amp:
EBS Taurus

↑再販版
↑オリジナル版
2nd Album
「あめつちほしそら」
キャスネット ,2003年)


bass:

YAMAHA TRB-Custom

direct box:

Presonus BlueTube
3rd Album
「Tappy」
KICK’UP,2006年)

bass:
YAMAHA TRB-6PII (MP)

direct Box:
Presonus BlueTube

 

※画像クリックで販売サイトへ