そこでしか聴けない音楽のために

 今月は熱帯,Dedicatoria,ゴスペル (Joyful Vox),Pocket Portal,そして伊藤芳輝メモリアルと,とにかくアレンジががっつりされてて仕込みが大変なライブが多かったのだけど(何なら自分のリーダーライブが一番セッション的だったかも),それだけにどれもお客さんにとっては見応えがたっぷりあったと思うし演る側の充実感も一際大きかったように思う。
 中でも伊藤芳輝メモリアルはホント痺れた。元々ギター+ヴァイオリン(+タブラ)で演奏していた曲を2本のヴァイオリンとベースだけで再構築するわけで,もちろんトリビュートライブなので伊藤さんの曲をただ演奏するだけでも十分意義があると思うのだが,やっぱりお客さんがお金を払って聴きに来てくださる以上,いくら変てこな(笑)編成でも少しでも充実した音楽に仕上げたいという願いがあり,3人で事前リハを組みあれこれ知恵を出し合って,この編成ならではのアレンジをさまざまな制約内ではあれど突き詰められたように思う。アーカイブを観返してみて,もちろん個人的なミスもあったけど良いライブ/良いユニットだなと思った。

 今年から熱帯JAZZ楽団のレギュラー・メンバーを拝命するにあたり,当然ながら膨大な数のレパートリーのうちほとんどの曲が私(と畠山啓pn.君)にとっては初見なわけで,これも当然ながら事前の準備はそれなりに時間を要するわけなのだけれど,このバンドの私的な印象として「個人練習がやたら楽しい」という変な属性を感じるのだ(笑)。その要因は概ねわかっていて,「資料音源が音質・演奏とも素晴らしい」ということがまず一つ,そして二つ目がデカ要因なのだが何といっても「アレンジの完成度が凄まじく高い」こと。ビッグバンドなのだから当然アンサンブルの隅々までアレンジがなされているのだが,どの曲も丁寧に,時には斬新に,しかも誰が聴いても楽しめるようにこだわり抜いてアレンジされているのがよく判るのだ。だから資料音源に合わせて家で練習しているとついノリノリになってしまうという(笑)。今年のASKAさんや水樹奈々さんのコンサートもそうだったけど,バチっと嵌まったアレンジのもとで演奏できるというのはたとえ書き譜であっても幸せな気持ちになるものだ。そしてカヴァー曲を演奏する際に,「その時にしか聴けない音楽」を構成する一番大きな要素といえばやはり編曲=アレンジに他ならないだろう。良いアレンジが名曲をさらなる名曲にしてしまう例は「展覧会の絵」をはじめ枚挙にいとまがないはずだ。逆にジャズ・コンボで,世界中で数えきれないほど演奏されているようなスタンダード曲をただのリード・シートだけでセッションするのがこんにちでも「有り」なのは,とりも直さず「ソリストのソロが唯一無二のものなら独自の音楽として成立する」タイプの音楽だからであろう。わ,私にはとてもそんな力量はないけれど。

 今月,Dedicatoriaと伊藤芳輝メモリアルという2つのトリビュートライブをやって思ったことは,作曲者本人が亡くなってもそのオリジナル曲・アレンジ曲を仲間のミュージシャンが演奏し続けたいなと思うこと,そのミュージシャンに賛同してくれるバンドメンバーが集まること,そして作曲者本人の演奏でなくてもそれを聴きにきてくださるお客様がいるということは凄いことだな…ということだ。それには作編曲の素晴らしさに加え故人の人徳が物を言うと思うので,私が「自分もその境地を目指す」とかはもちろんないが(笑),自分のリーダーライブが「そのライブでしか聴けない音楽」であることだけは外さずにいられたら,と願っている。

「伊藤芳輝メモリアル」。Yui (vln.) 女史, 私 (bs.) , 平松加奈 (vln.) 女史
私の着ているシャツは芳輝さんの形見。私が着るとボタン取れそう(笑)


引き続きご案内する寝落ち用再生リスト。ご活用ください。
私これ観てるとホントに寝落ちします