鍵っ子イージーミス<その2>

 (<その1>より続く)

 旅先の名古屋の宿に家の鍵を忘れてきてしまい,横浜の自宅マンションの前で呆然と立ち尽くすワタクシ。ただでさえ蒸し暑い昼下がりに合計20kgはある旅荷物を持っているのですからただ立っているだけでも汗が吹き出てきますし体力も消耗します。ヨメは会社に行って不在ですし猫は鍵を開けてくれそうにありません。シャワーを浴びて昼寝する快楽だけを考えながら帰ってきたというのに目も当てられない馬鹿さ加減です。人として全く機能しないまま30秒くらい立ち尽くしていると昔同じような失敗をした事を思い出しました。妙蓮寺で一人暮らししてた頃,バイト先に止めておいたクルマの中に家の鍵とクルマの鍵を両方入れたままインナーロックしてしまったんです。家の鍵さえ持っていればアパートに車のスペアキーを取りに戻れたのに,それも一緒にクルマの中に閉じ込めてしまったという天然っぷり。そうそうあん時はバイト先のワンボックス車を借りてアパートを管理している不動産屋に家のスペアキーを借りに行って,いったんアパートに戻って鍵を開けて,クルマのスペアキーを取ってバイト先に戻って,鍵を開けた自分のクルマを運転して不動産屋に戻って,家のスペアキーを返してやっと家に帰れたんだっけ…などと人生を無駄遣いした話を思い出しているうちにふと「そっかマンションの管理室ならスペアキー貸してくれるかも」と思いつきました。鍵が無いともちろん自室には入れませんが,幸い管理室ならIDカードがあればアクセスできます。早速カードでオートロックを開け棟内に移動して管理室を訪ねました。

 やぢま「あのすみません,○○○号室の箭島ですけど」
  管 「はいはいどうしました?」
 やぢま「旅先の宿に鍵を忘れてきてしまって家に入れないんですが,スペアキーを借りられないでしょうか」
  管 「あースペアキーは既にお渡ししているものしか無いんですよー(気の毒そうに)」
 やぢま「え。という事は私はどうすれば」
  管 「ご家族の方に開けてもらうまでお待ちいただくしかありませんねー」

 

…あれ。もうゲームオーバー?

 

 多分ホントに10秒くらい呆然としていたらしく,管理室のおじさんに「いやー本当にお気の毒です」と念押しされて我に返りました。とりあえず今何をなすべきかざっと頭を巡らせ,待つにしても動くにしてもこんなバカみたいな大荷物を抱えたままというのはあり得ないという結論に至り,「それではすみませんがこの3点の荷物を預かって頂けませんか」と頼むと「あぁ大丈夫ですよ」と言ってもらえたので受付の奥で荷物を降ろし,マンションのエントランスに戻ってもうひと思案。自分一人の事だけならヨメが帰ってくるまでどこかで時間をつぶすのも十分アリなのですが,間の悪い事にこの日は猫の昼ゴハンをあげるのが私の役割になっていたんです。愛猫に腹を空かせたまま長時間留守番させるのはいたたまれないので,「やはりヨメに頼んで鍵を借りて来よう」と決めました。移動する前にとりあえずケータイに電話。あっさりと留守電に転送されてしまいましたが,仕事中に私用の電話に簡単に出られる訳も無いので相手が出るまでかけ続ける事はせず,こちらからヨメの会社に取りにいく事にしました。たった今降りたばかりのバス停から再びバスに乗ってJRの駅へ。何だか家の鍵を持っていないというのは帰る家の無い人になったような気分であり,ものすごく人間が小さくなったような気がします。

 

…<その3>へ続く。